4月〇日 晴れ
とても暖かい日だった。
春だねえ、とおかあさんは嬉しそう。
最近、おかあさんは部屋中に
なにかを沢山並べて、散らかしている。
「アルバムの整理をしているんだよ」って言う。
散らかしているのは、《写真》っていうものなんだって。
大きいお姉ちゃん、兄ちゃん、ちい姉ちゃんの
赤ちゃんの頃から、学校のものまで、
なんだかいーっぱい並べてる。
ボクたちニンゲン以外の生き物には、
《時間》というものが、何なのかわからない。
楽しかったことや、怖かったことは
いろいろ思い出すこともあるけど、たとえば
『きびたは今、2歳だよ』って言われても
その意味がよくわからないんだ。
でも、おかあさんは写真を見ながら
「懐かしい!これ、お姉ちゃんが生まれたとき」
「これは、兄ちゃんの5歳の誕生日だ」と
ニコニコして、ボクに教えてくれるんだ。
そこには、ボクの知らない、今よりも前の
子どもだったお姉ちゃんや、兄ちゃんがいる。
保護施設の中の時の、ボクたち兄弟のように
くっついて楽しそうに笑っていたり、
ケンカして泣いていたり。
写真の中には、おかあさん達が過ごしてきた
《時間》っていうものが、
たくさん詰まっているのかな。
チリチリの長い髪の毛のおかあさんもいた。
ボクが、へんてこな写真をじっと見ていたら、
「それ、わたしが20歳のころ。うわ、バブリー!」
って、自分の写真なのにケラケラ笑うから、
ボクも楽しくなった。
そうか。こうやってニンゲンは、
自分が過ごしてきたいろんなことを、
写真を見ながらその頃の《時間》に戻って
その時の気持ちも思い出して、
泣いたり笑ったりできるんだね。

それにしても、たくさんの写真だよね…。
おかあさんはカメラを3台も持ってるんだって。
いつも仕事で忙しかったから、休みになると
必ずカメラを持って出かけては、
子供たちを追いかけて撮影してたんだって。
ボクの写真は?って聞いたら、
「最近はなんでもスマホで撮影しちゃうからね…。
今度、きびたのアルバムも作ろうね」って!
いつか、ボクの写真をみて、
ボクのことを知っているだれかが
「あ、きびただ!かわいい」って
言ってくれるのかな。
明日もいい日になりますように。