3月〇日 晴れ
今日は、おかあさんが、朝からささみ肉を茹でている。
焼き芋もあったよ。
ボクはどちらも食べないよ。
これは柴犬さんにお供えするんだ。
3年前の今日、家族だった柴犬さんが病気になって
10歳で虹の橋へ旅立った日、なんだって。
おかあさんは毎日、柴犬さんの写真に話しかけて、
お供えしているお水を取り替えて、
それからボクにご飯を出してくれる。
そうか、今日は特別なんだね。
ちい姉ちゃんもやってきて、ふたりは出かけて行った。
お散歩大好きだった柴犬さんが、
いちばんのお気に入りだった
少し遠くの公園に行くんだって。

柴犬さんがいなくなったとき、
おかあさんは体を壊しちゃった、って
お姉ちゃんが言ってた。
おかあさんは、子供のころから
たくさんの動物と暮らしてきたけれど、
柴犬さんの病気を
『どうして治してあげられなかったのかな』って
悔しくて、悲しすぎて、何日も泣いて。
ペットロス、っていうんだとお姉ちゃんは話していた。
そんなとき、保護猫の譲渡会で
ボクは、大きいお姉ちゃんと
おかあさんに初めて会った。
兄弟たちは次々と新しいおうちが決まって、
だれもいなくなった。
大きいほうのお姉ちゃんが、ひとりぼっちになったボクをみて
「これは運命。おうちに一緒に帰ってあげよう」って、
おかあさんに言ったんだって。
家族のみんなが『かわいいね』って、毎日お世話をしてくれた。
おかあさんは、柴犬さんに言っていた「ごめんね」を
「ありがとう」にかえながら、
少しずつ元気を出していったんだ。
ちい姉ちゃんが、お話ししていたよ。
「お母さん、知ってる?ペットとして飼われた動物が
天国へ行くと、かみさまが
あなたのお名前は?
って、確かめるんだって。
『はい、かわいいちゃん、といいます』
『僕も、かわいいちゃんです』
って、みんなが言うんだってさ。
どの子も家族から『かわいい!』
『あら、かわいこちゃん』って
何度も言われて
大切にされてきたからなんだって」
おかあさんは「それ、よくわかる~」
って笑った。
お母さんが笑うと、
柴犬さんは嬉しそうだよ。
内緒にして、って言わてれるけんだど、
ボクだけは
時々、柴犬さんがおうちに
遊びに来ているのがみえてるんだ。
明日もいい日になりますように。